ハートで感じる他者の心理?

2006/3/13

前回「ハートで感じる英文法」を絶賛した。基本は発話とそれを取り巻く状況から相手の考えていることを推測すると言うことなわけですね。そうなると、「心の理論」というのが連想的に出てくる。

心の理論は人の行動と心理の間の関係を理解するために素人が用いる認知的なフレームワークを指す。特に焦点となっているのは、ご存じのように、他者には自分とは独立した信念、欲求が存在し、それがその人の行動の原因となることを理解出来るのはどうしてか、またそれはいつからかということだ。この分野の研究はおおよそ20数年くらいの歴史があり、


大きく分けてtheory theoryという立場と、simulation theoryという立場が存在する。theory theoryとは、人は素朴な心理学理論というものを持っており、それによって人の心理、行動を説明予測するというものだ。一方、simulartion理論とは相手の立場に身を置いて、そこで自分だったらどう感じる、どう考える、どう行動するというシミュレーションをやって、それによって他者の心理、行動の予測、説明を行うというものだ。

実はこの半年間大学院のゼミで、S. Gallagherという哲学者のHow the body shapes the mind.という本を読んでいた。タイトルからも分かるように、認知科学や認知神経科学、発達心理学などの知見を元に心と体の関係を現象学的に考察するというものだ。

この本にはおもしろい話がいろいろと載っていて(求心路障害のIan、新生児模倣、ジェスチャ、などなど)、こういうのを1つずつ語るのもいいのだが、ここでは最終章あたりで心の理論の再検討を取り上げる。これによると、theory theoryは第三者的心の理解の中でもとても限られた状況を取り上げていること、また理論の暗黙性、潜在性を強調するが実際には顕在的で、意識的な操作を必要とする実験に基づいたものであることが問題であると指摘する。一方のsimulation theoryについてはすべてが一人称的に理解されるという限界を持つ、またミラーニューロンが実際に行っているのはsimulationではなく、単なる観察とそれに基づく運動の準備にすぎないのではないか、という批判を行っている。

じゃあ、どうやって人は他者の心を理解するのかといえば、身体化された認知、つまり発話だけでなく、表情、ジェスチャー、状況などが作り出す雰囲気のようなもの(そういう用語は使わないけどね)で、直接に分かってしまうのだという。われわれは普通の対人的場面においては、mind readingではなく、body readingをやっているという。誤解を恐れずいえば、まさに「ハートで感じる」ということじゃないかな。

こういう考え方には、まともな心理学者から強い反論が来そうだが、オレとしてはけっこう共感できる部分も多い。心の理論の人たちが行うような実験が設定する状況は、究極の状況のようなもので、そんな状況で出来る出来ないやっていても、普通の世界の話はなかなか分からないような気もするから。まあ、仮に共感できないとしても、彼の批判の部分はけっこうまともなのでよく検討すべきだと思う。


1件のコメント

  1. 阿部慶賀 より:

    私も、How the body~は当たりだったなあ、と思いました。
    唐突な議論もあったりしますが、何章か担当して、
    身体性というアイデアの必要性を再確認させられました。
    ロボティクスの人やインタフェースの人たちとともに
    議論できればさらに面白く読めそうだ、と思っています。