菊練りとか、サンバとか、(今月のCATKAT)

2006/7/16

今週のcatkatはJAISTの藤波さんと、数年前にそこを卒業した阿部さんの「わざの獲得」についての研究を聞いた。前々から興味のある話で、じっくり聞いてみたいと思っていたのだが、3時間くらいまとめて聞けたのでものすごくラッキーだった。彼らが扱った題材は、陶芸の菊練りである。これは、粘土をこねて、そこに含まれる空気を抜き、釜に入れたときに作品が割れたりしないようにする大事な作業だ。また上手になるためにはかなりの時間が必要で、プロになるような人たちはここに3年くらいの時間をかけるらしい。


この菊練りというわざの性質を理解するために、阿部さん、藤波たちは、熟練者、経験者、初心者のおのおのの体の動きを、モーションキャプチャー装置を用いて解析した。上半身に10数個のセンサーを取り付け、これらの動きのパターンを解析した。その結果、初心者は各部の動きがまるでばらばらなのに対して、経験者は動きが1つのリズムに収束する形で協調的に動いていることがわかった。しかし、さらに面白いのは、熟練者(10年程度やっている人)になると、腰、頭などの体幹部の動きのパターンと、手や肩の動きのパターンが、おのおの独自のリズム(周期)になっていることがわかったのである。この結果から、熟達が各部位の協調による自由度の削減だけではなく、協調からの分化をも含んでいることが明らかにされたというわけだ。

その後、実は菊練りは上半身だけの問題ではなく、下半身も関係することが明らかにされ、そこから下半身でリズムを作り出すことの重要性が指摘される。そして、そこから(なぜか?)サンバの研究となる。サンバにおいては、腰と足を左右でクロスさせたような協調と、それらが右と左で異なる位相で進むという、かなりシンプルな(実行は難しいのだが)パターンの生成が熟達を支えていることがわかったという。

協調だけではなく、協調しつつも、そこに独自のパターンを持ったサブシステムが出来上がるというわけですね。なるほど、これは面白い。こういうリアルなわざの熟達、それもかなりの年月をかけた熟達というのは、やはり実験室課題にはない、新しい理論的課題を含んでいるわけですね。

ということですごく印象的でした。ただ、いくつか気になる点もありましたね。ひとつは、非常に熟達に長い時間がかかるので、その全過程を追うことは到底できず、スポット的にcross-sectionalに研究をせざるを得ないというところだ。これだと、どうやって分化が生じてきているのかとか、そこでの揺らぎとか、そうしたものがあまりよくわからない。これは発達心理学の年齢別検討と同じ種類の問題だといえる。

それから知覚、ものの見え方、目の付け所、のようなものについても、何らかの変化があるはずで、それが協調や分化とどのようなつながりになっているかが面白い研究ポイントになると思う。

そうそうそれから、直接関係ないのだけれど、藤波さんたちの話を聞きながら、
「ゆらぎ」と「あそび」
という大事な概念の区別について明確な考えを持つことができた。

もう1件は、NIIの鈴木さんの研究で、コンピュータ画面上のエージェントの向きや、距離によって、そのエージェントへの印象が変わるというだけならば、まあそんなところかと思うのだが、再認成績までも影響を受ける(それも印象とは異なるパターンで)という、なかなか驚きの研究だった。こういうのをみると、いよいよReeves & Naasの話は奥行きのあるものだったということがわかってくる。今思いついたのだけれど、エージェントじゃなくて、本当の人だったらどういう印象を持つのだろうか(これは発表の中ですでに述べられていたっけかな?)。


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