Beyond the learning curve

2006/9/24

東大の教育心理の院生およびOB,OGの人たちの変な名前の研究会と合同でcatkat研究会が9月23日行われた。Speelman & Kirsner “Beyond the learning curve: The Construction of Mind” (OUP)という本だった。なかなか不思議な本であった。


指摘はとても納得がいくもので、学習の速度向上的な側面(べき法則であらわされるような)と転移の側面を統一的に考えようという論文だ。オレは類推をやっていたので、当然転移のような問題に対しては知ってはいたが、速度向上的なスキル学習については最近になってブロックの研究をはじめる前までは完全に素人だった。このように、二つとも学習なんだけど、何の関わりもなく研究が行われてきたという経緯がある。20世紀初頭の話からコネクショニストまでの話を(雑な部分もあったけど。特に類推的転移などの研究は全く触れられていない)レビューしてあり、けっこう勉強になった。しかしどちらも両方出来るという理論は存在せず、狙いとしてはよくわかる.

彼らの主張のポイントはいくつかあって,
1.スキルをコンポーネントに分けて,それらが異なるスピードで熟達化する(つまり別々の学習曲線を持つ)ことを前提としよう,
2.こうしたスキルは階層をなす(ただし,この階層の考え方はガニェなんかの古典的な,合理的か大分析に基づくものでかなりよくない).
3.これらの熟達をcomplex adaptive systemとして捉えるべきだ(対数正規分布というのがキーだ)
のようなものだ.

3はとても面白い観点を含んでいる(危ないにおいがすると行った方がいいかな).これは6章,あるいは5章後半から突然姿を現し,参加した人間全員度肝を抜かれるような展開になった(From dusk till dawnというタランティーノの映画を思い出す).ゲシュタルト心理学とか,DSAのような,物理−生理−心理同型説のような考えを表明している.共感できる部分もある.例えば心理システムが環境への適応だとしたならば,環境の物理的性質を直接取り込むようなものになっているはずだという考えは,生態心理学にとても近い主張だ.ちなみにこの本ではアフォーダンスではなく,対数正規分布が物理,整理,心理をつなぐものになるらしい.ただ,なにしろ唐突なのと,難しいのとでよく追えない部分が多かった.関連のものを読むべきなのかもしれない.

はじめの方はACTとか懐かしい学習理論の批判的な検討であった。あまりに懐かしい話で、この本は大丈夫かという気になったが,最後はまったく別の展開ということでよかったというか,面白かったね.レジュメ担当の皆様ごくろうさま(徹夜の人が異常に多かったというか,ほぼ全員だったんじゃないかな).

脱線するが,ACTについては大昔、うーーん約20年前に東大で大村先生のゼミの人たちと一緒に読み会をしていた。そしてオーム社の知識工学講座『知識の獲得と学習』(確か87年くらい)という本にその紹介を佐伯さんと一緒に書いたというくらい昔の話だ。さらに脱線するけど、最近「知性の創発と起源」を書いたときにオーム社の経理からこの昔に書いた本についての問い合わせがあった.これの再販の原稿料を鈴木宏昭という人間に払いたいのだが,宛先が不明で払えない.この人物とオレは同姓同名か,それとも本人かというものだった.はい私ですと言って,7000円くらいの原稿料をいただいた。


1件のコメント

  1. kiyokawa より:

    土曜日はご参加いただき、ありがとうございました。鈴木さんはじめ、CATKAT研究会の方に参加していただいたおかげで、「なんじゃこりゃ?」で終わらず、面白い部分を見つけることが出来ました。ただ、個人的に残念だったのは、スキルを構成するコンポーネントがどういうレベルのものなのかがはっきりイメージできなかった点でした。広範囲な現象に適用できるようわざと曖昧になっていたのだとは思うのですが。
    それから、「変な名前の研究会」は、一応「Cognition, Human Information Processing and PsYchOLOgy研究会」の略だったと思います。長々と失礼しました。