ポランニーから見るプロジェクション:棲み込み

2017/4/5

さて近位項として捉えたものを遠位項に投射するということは,遠位項の世界の中に自分の感覚を飛ばすこと=プロジェクション(投射)すること,となる.ということは,遠位項の中に自分の感覚が存在することになる.世界の中の対象である遠位項の中に自分の感覚があるということは,言い方を変えれば,遠位項のある世界に自分が「棲み込む(dwell in)」ということだ.

このように考えると,棲み込みは身体化(embodiment)とも密接に絡むことになる.対象世界の中に自分の感覚,認識を投射することで,世界を内在化=身体化するということだ.これによって対象世界の動きが自分の身体の動きのように自然なものとなり,なぜそう動くのかを直感として理解できるようになる.ここでは近位項=感覚はもう意識されない,暗黙化,私秘化されている(ここらへんは,佐伯さんの擬人化なので,これもまた別エントリーで書きますけど,佐伯さんの90年代くらいに顕著に表れていた主張とポランニーはとても似ている).

このように言うと大変に神秘的なもののように聞こえるかもしれないが,ごくごく当たり前のことではないだろうか.例えば前のエントリーで書いたような杖のことを考えてみよう.杖を使っている人はそれが何か障害物に当たった時には,その障害物を感知するのであり,自分の手のひらの感覚はよほど極端なもの,あるいはありえないもの(電気ショックとか)でない限り,意識の外にあるのではないだろうか.

視覚もそうだが,これは別エントリーで書くので,聴覚を取り上げてみる.ここでも杖と同じことが起きる.実際には鼓膜の振動,耳小骨,蝸牛の振動,活動が近位項となる.しかしこれを感じる人はいない.音の発生源=遠位項が直接に感じられる(杖同様,あまりに異常な刺激,極端に大きな音などの場合は,耳が痛くなる,つまり近位項を感じる).

このように極端な場合を除けば,ある程度慣れ親しんだ近位項=感覚は私秘化,暗黙化される.つまり意識の外に出てしまうのである(暗黙知というのはこのことを指すわけではないことに注意).すると感覚を与えていた遠位項が自分の目前にある,あるいは自分が遠位項のなかに入り込んでいる,つまり棲み込みという感覚が生み出される.

こうした現象の脳内機序については,「脳の中の身体地図―ボディ・マップのおかげで、たいていのことがうまくいくわけ」でさまざまな例が見られるボディマップの更新,またこの本の中で紹介されている入来らの研究が参考になると思う.


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