洞察ワークショップ

2009/8/31

日本心理学会で阿部慶賀さんが洞察に関するワークショップを開き,そのスピーカの1人として参加した.

東京電気大の寺井さんは仮説空間,データ空間という理論的なバックグラウンドから洞察を検討した.言語報告をさせるといわゆる「はまった」状態から突発的に「ひらめく」状態への変化が見られる.しかし詳細な眼球運動の分析を行うと,この飛躍のはるかに前から,人間は洞察をする方向へとシフトしていることが分かるというもの.だいぶ前に聞いた研究なのだが,やはりその意義は大きい.

中部大学の清河さんは共同で洞察課題を行わせたときの結果を発表した.共同というよりは人のものを見ることがどんな意義があるのかを検討した研究だ.二人で20秒ずつ交替でパズルを解く.この際,一切のインタラクションは禁止されている.このような条件で行うと,1人でやったときよりも成績がよくなるという.さらにおもしろいのは,20秒でいったん中止して,人のを見るかわりに自分のやったことを見るという条件は,1人でやったときよりもさらに悪くなるということだ.メタ認知を導入して説明をしようとしていた.この研究も結構前のものだけど,やはりおもしろい.人の失敗が成功を生みだすのだろうか,それとも人の(部分的な)成功が成功を導くのだろうか.いろいろと研究課題がわき出てくる.

青山学院大学の阿部さんは,社会的交渉における裏切り者検知という進化的に作り出されたバイアスが,ある種の洞察問題解決を阻害するという話をした.扱った問題は次のようなものだ(細部は違う).

太郎,次郎,三郎は土産物屋で1万円ずつ出し合って,3万円の品物を購入した.このお金を受け取った店員が店主にこのお金を渡しに行くと,5000円まけてあげなさいといった.この時店員はこの5000円の中から2000円をねこばばして,3000円を三人に返した.三人はこれを1000円ずつに分けて受け取った.さて,三人の出したお金は9000円×3で27000円,猫ばばした店員の2000円と会わせると29000円にしかならない.1000円はどこに行ったのでしょうか.

というものだ.この問題はかなり難しくて,自発的に解ける人はそれほど多くはない.阿部さんはこの原因が猫ばばという裏切り者がいるため,そこに執着してしまうことと考えた.そこで猫ばばではないような問題にこの話を変えたところ,成績がかなり向上したという.進化と洞察を結びつけようということらしい.

私は,洞察の突発性,驚きは,失敗からの潜在学習の成果を,それを意識が後から観察することに拠るものだ,という発表を行った.潜在学習や意識のコントロールを離れた認知は数多く存在する(偶発学習,潜在記憶,潜在学習などなど).だとすれば思考だけは潜在とは無縁だと考えるのはおかしい.実際,洞察が意識的なコントロールとは相性が悪いという報告は数多くある.ということで,潜在成分を含めたモデルを提案し,これを実証するために行ったサブリミナル刺激を用いた実験を報告した.これも古い.

コメンテータの三輪さん(名古屋大)はご自身の最新のデータも呈示しながらだったが,時間切れできちんと聞けなかった.こんどしっかり聞くことにしよう.

初日に午前中のワークショップと言うことで,開始15分前に行ったら,発表者以外の人は一人だけという状況で,これはどうなるんだろうと思ったが,最終的には20人くらいの方が聞きに来てくれた.このコミュニティが広がることを祈りたい.また阿部さんの努力に感謝したい.

その後,推論のシンポジウムのディスカッサントとして午後のセッションに出る.ここでは理研の入来さんや,霊長研の友永さんなど,本当にお久しぶりという方たちと合い,生産的なディスカッションをすることができた.もう1人のディスカッサントのSteven Slomanさんとも10年ぶりくらいでお会いした.ただこれらはほとんどシンポジウム前の話.シンポジウム自体は,企画者の坂本さんが「何でも推論なんだ」ということでいろんな推論を集めたとかいう程度なので,全体としてはあまり意味のないものであったと思う.


Rational animals, irrational humans

2009/5/26

標記のような題名の本に1章を書いたが出版された。これは昨年2008年の2月に慶応大学のGlobal COE(代表:渡辺茂先生(表紙の左の人は渡辺先生に少し似ている))で国際シンポジウムを行ったときの発表者が1章ずつ書いたものをまとめたものだ。

ここで私は,洞察研究を通して,創発の4条件を検討した。複数の内的資源が中央制御を離れて,ある状況下で同時活性し,環境と相互作用することを通して,新しいパターンを作り出す,これが創発だ。

4条件とは次の通り。

  1. 生成性:人間はプログラムされたこと以上のことができる。あるいはプログラム自体を作り出すプログラムを持っている。
  2. 冗長性:人間は一つのことを行うのに複数の手段を持っている。そしてそれらは同時に活性化する。
  3. 局所相互作用:人間の行動は意識によってコントロールされているわけではない。意識は潜在的な活動の一部をモニターするだけ(これはちょっと言い過ぎか)。
  4. 開放性:人間は環境と絶えず相互作用する。その相互作用こそが創発を支えている。
ほとんどこのことを言いたいだけで(というか,こんな大変なことを言うために),ここ10年くらい生きている。よかったら読んでください。ちなみに青山の図書館には寄贈しておきます。

内省はゴルファーを下手にする

2009/2/20

わけあってネットで言語隠蔽効果の論文を探していたら,おもしろい記事を見つけた.これはエキスパートレベルのゴルファーに5分程度自分のショットについての述べてもらうと,その後成績ががた落ちになるという話しだ.これはエキスパートのレベルで顕著であり,ノービスでは別に悪くなるわけでもないという(むろん良くなるわけでもない).

この研究を行ったのは,スコットランドにあるSt Andrews UniversityのMichael Anderson教授とのこと.記事の中では,この影響を言語隠蔽効果によって説明していた.さて,諏訪さんはなんていうのかな.

ちなみにSt Andrews と言えば,全英オープンが開かれるゴルフ場がある場所ですよね.


洞察 ]

metaとabstraction

2006/3/30

3/18にあったcatkat研究会で、メタ知識という言葉と抽象化という言葉を区別することが出来たので、いちおうメモしておく。抽象化された知識(abstraction)というのは、ある対象の属性をブランクにしたものとして定義することが出来る。人間の抽象化を考える際には、実際にはブランクにするための制約が必要になるのだが(完全なブランクには出来ずある範囲を設定するとか)、とりあえずはどれかの属性においてどんな値でもとりうるようにした知識を抽象化と呼ぶ。

一方、

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