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平田 オリザ先生からのメッセージ
佐伯先生

平田 オリザ教授からのメッセージ

 コミュニケーション教育、ワークショップ型の授業を実践しようとする先生方に、私はこの十数年、ずっと「教えないでください」と言い続けてきました。とにかく教師は教えたがる。教えないと不安でたまらない。

 教師が一つの答えを隠し持っていて、それを当てさせるような授業を続けるなら、これほど教師にとって楽なことはありません。子どもたちの自由な発想を受け止める、もしかしたら、その発想さえ出てこないというリスクも背負う、それはとても勇気のいることなのです。

 ワークショップ型の授業では、子どもの表現を待つ勇気が何よりも大切です。しかし、経験や理論に裏打ちされていない勇気は、ただの蛮勇です。子どもから、もう少しで表現の芽が出てくるのか、あるいは本当に何も出てこない膠着状態にあって、適切なアドバイスが必要なのか。それを見極める眼、職人的な技術を身につける必要があります。

 ワークショップデザイナー育成プログラムでは、何よりも受講生の皆さんに、このような勇気、勇気を支える自信、自身の源となる経験と理論を身につけていただきたいと考えています。

 コミュニケーション教育が重視される背景の一つは、産業構造の転換です。現在、労働人口の七割近くが、第三次産業に従事します。工業立国時代の教育では、ネジを90度曲げなさいと言われたら、素直に90度曲げるのがいい生徒、いい産業戦士の卵でした。

 しかし、サービス業中心の社会では、「ネジを90度曲げなさい」と言われても、60度曲げてみようという発想や柔軟性、あるいは「120度曲げてみました、なぜなら・・・」と説明できるコミュニケーション能力や発進力が、より重要視されます。 もちろん、口べたな子、表現の苦手な子もいるでしょう。そういった子どもたちにこそ、新しい基礎学力としてのコミュニケーション能力が必要となってきます。

 答えが一つとは限らない、もしかしたら答えなんかないかもしれないワークショップ型の授業は、コミュニケーション教育を進めていく上で不可欠のものとなっています。

 ワークショップデザイナー育成プログラムは、現場の先生方、アーティスト、そしてコーディネーターを目指す人々や一般の企業の方たちが、混在して授業を受けるところに大きな特徴があります。この混在、混沌こそが、ワークショップの魅力です。ぜひ、その魅力を現場で体験していただければと思います。

 

平田オリザ(劇作家/演出家/青年団主宰/東京藝術大学COI研究推進機構特任教授)